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絵画制作を通じた交流学習 〜Art Mile Project〜

このプロジェクトはシリアにいた協力隊員(古川と、同じ職場のコンピューター隊員)と大学(私の前任者岸磨貴子さんの学ぶ関西大学大学院)とNPO(Japan Art Mile)と石川県の小学校と大阪の中学校、そしてNPO代表の方がやっている英語塾(中学生グループ)が関わった、異なる形態の組織が連携したプロジェクトです。

絵画制作を通じた交流学習 〜Art Mile Project〜

絵画制作を通じた交流学習 〜Art Mile Project〜 発端。そのころシリアのパレスチナ難民キャンプの学校にインターネットの敷設が始まっていました。インターネット回線について僕がその使い方に疑問を覚え(先生はネット検索やメールの送り方を生徒に教えているレベルだった)学校でインターネットがあるということはどういうことなのか?どういう教育的取り組みが可能なのか?ということを考え始め、同期で同じ職場の伊藤さん(コンピューター技術)と話し合いをする中で、当時(今も)難民学校の教育の中で軽んぜられていた美術教育の地位向上を狙ってインターネット上に美術館を創って生徒の作品を展示してはどうだろう?というアイデアが生まれました。インターネット上であるため国境を越えた展覧会の開催が可能になるので、日本の子どもたちの作品も一緒に展示できるようにし、お互いに感想を書き込めたりできたら面白いし意味があるのではないか?テーマを決めて競作したりできるのではないか?と思い、一緒にやってくれる日本の学校を見つけるために、前任者の岸さんに連絡を取ったのでした。
そのころには日本では、僕の前任者の岸さんがNPO(Japan Art Mile)の代表の塩飽(しわく)さんと出会っており、塩飽さんの活動http://www.ako-info.jp/artmile/(アートで世界の子どもをつなぐプロジェクト。壁画制作を通して思いを伝える)に共感しており、シリアのパレスチナ難民の子どもたちと日本の子どもたちとをインターネットでつなぎ、相互理解・交流学習をして壁画を共同で制作したらどうだろうか、という話になっていきました。

こうした志・あるいは夢が触発し合ってこの活動が始まったのです。

遠く離れた場所に住む子どもたちと子どもたちが出会って、一緒に絵を描く。インターネットはそんなことを可能にしてくれました。TV会議は相手の表情を見ながら対話ができます。BBS(電子掲示板)は文字によってゆっくりと考えながらメッセージを書いたり、読んだりすることができます。写真を送りあうこともできます。

遠くの世界に住んでいる同じくらいの年の子どもと仲良くなって、一緒に絵を描く、という具体的な目標を定めた事によって、さまざまな活動の理由が明確になります。

自分の文化を知ること。相手の文化を知ること。
英語で話すこと。英語で読み、書くこと。
どうやったら相手に伝わるかを考えること。
歴史を知ること。

TV会議を横から見ていて、自己紹介のレベルを超えて、子どもたちが自分の夢について話し合ったり、笑いあえているときは本当にうれしい気持ちになります。

壁画は縦1.5M×3.6M。大きいです。共同制作を成功させるためには、最初に設計図を書く必要があります。分担をきめ、最初のグループが自分の分担の部分を描き、半分完成したキャンバスを輸送して、次のグループが残りの半分を完成させる。そうして全体が姿を現すのです。

あるグループは、日本人とパレスチナ人のお祭りが行われている広場を描きました。周りには屋台が並び、その後ろには街が広がり、その後ろに自然を描くというプランです。
このグループがユニークだったのは、パレスチナの生徒たちが日本の人物と風物を描き、日本の生徒たちがパレスチナ・シリアの人物と風物を描くというアイデアで共同制作をしたことです。 もちろん最初は相手の国の服すらわかりません。
そのため、インターネットを通じて情報を交換し写真を送りあい、相互理解を深めていきました。そしてその学びの成果が壁画という形になったのです。

絵画制作を通じた交流学習 〜Art Mile Project〜

こうした交流学習&共同制作は、異文化理解がはかれるのは勿論、ともに大きな「絵」を作り上げた仲間、という感覚を育むことができます。

絵画制作を通じた交流学習 〜Art Mile Project〜 仲間とは意思の疎通を図りたいので英語も一生懸命使うようになります。

そして一番大事なことは「ひと」がその国に住んでいるということを、自分の人生と関係づけて考えられるようになるということです。

ニュースである国の惨事を知っても大抵、数日後には忘れています。それはニュースであり、情報にすぎないからです。自分の生活とつながっているとはあまり感じられない。

しかし一緒に絵を描いた仲間がいる国に戦争や惨事が起きたとしたら、当然のことですが平静ではいられないでしょう。自分の人生と関わっていると感じるからです。

絵画制作を通じた交流学習 〜Art Mile Project〜 こうした他人事ではない関係性を世界中の子どもたちが得たとしたら、少しづつ、世界は良くなってゆく。そう信じています。

世界中の学校と日本の学校をつなぎ、出会い、知りあい、ともに作り上げる。情報の交換で終わらせずに、共に何かを作り上げること。それは、この世界で、共に生きている証しそのものだと思います。そして、何よりも楽しい。


さらに協力隊員同士が地球のあちこちの学校を繋ぎあい、世界中の生徒たちが繋がりあう未来がやってくるとしたら・・・
夢は広がります。

しかしこの夢はすぐにでも実現可能な夢です。その気になって、声を掛け合って、インターネットにアクセスし合えば、いつでも始められるのです。
環境は十分に整っています。あとは、あなたのアイデア次第。「未来」は「今日」なのです。

絵画制作を通じた交流学習 〜Art Mile Project〜

私はこの春から大学院で研究と実践を始めます。「交流学習」と「共同制作」の関係をテーマとします。

とりあえず話だけでも聞いてみたいな、という方はお気軽にメールを下さい。簡単な質問だけでも結構です。

koichiafu@yahoo.co.jp

このアクティビティ、材料費一万円で始められるんですよ。

何かお役に立てるならば、嬉しく思います。

(記事:H16-3 シリア 視聴覚教育 古川 浩一)

【参考記事】