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駒ヶ根訓練所で職種講座を開きました

「都市計画・建築関係OVの会」の事業「隊員後方支援プログラム」では、関連職種の候補者を対象に、訓練所へ同一職種のOVを派遣して講座を開いています。百を超える職種すべてに専門の技術顧問がいるわけではないので、このような取り組みは非常に意義があると思います。

今回、愛知からは加藤(14−3パキスタン木工)が駒ヶ根訓練所の講座に講師として参加しました。(H20年2月17日)


「任国では、そこで自分で何とかするしかないがその前の不安が少しでも和らぐ様に」とか「せっかくだからパキスタンの宣伝もしてしまおう」とかいろんな思いで私は行ってきました。

候補者の参加は3名、講師は私と東京出身の谷さん(59-2ガーナ建築)の2人でした。木工の候補者の派遣国はサモアで、私の任国と環境がずいぶん違います。日本人の印象では、パキスタンというと中東の砂漠のイメージがありますが、それは単にムスリム国家ということから感じるもので、実際にはインドと同じ気候風土です。歴史的にみても北インドと同じです。
サモアは小さな島国ですが、森のある山もあり材木を輸出しています。こういった、日本とパキスタンの環境の違い、日本とサモアの違い(の予測)、それからパキスタンの事例のうちサモアで応用できること予測するという三角測量をするようなディスカッションになりました。

道具やその使い方で、見た目が違うが日本と同じ考え方であるもの、逆に見た目は同じだが日本と違う技術思想を持つものがあります。例えば、日本とパキスタンでは、鋸板の形がまったく違いますが、同じ引き挽きです。また、西洋鋸とパキスタンの鋸は鋸板の形がまったく同じですが、挽く方向が反対です。

そして、木工技術は、それぞれの地域で個性的な伝統をもっている場合があり、日本では見られない在来技術や発想が発見できるかもしれません。それは木工隊員にとって有意義なわくわくするような体験です。本当に、行って実際に見てみるまでは分からないものです。当たり前のことながら日本では、メディアを通じて任国の情報を得るしかありません。協力隊に色々な助言をしてくれる先生方もこういった情報を援用しているので、もしかすると現実とはゆがんだものになってるかもしれません。木工で非常に重要視する刃物の使い心地は、メディアでは伝え切れませんし、表面の仕上げ精度は触ってみるまで分かりません。これは、ほとんどの職種に当てはまることだとおもいます。だから、いくらOVだといっても言えることは「ボクもやってこれたのだから、あなたも大丈夫だよ」というところが精一杯でしょう。派遣される皆様の安全と活躍をお祈りいたします。


候補者からの声(アンケートから)
任国の状況で変わってくるだろうが、色々な事例を知ることで自分の活動に役立つと思う。派遣人数の少ない職種なので、このような機会があってよかった。勉強になったので今後もこのような活動を続けて欲しい。EVAAによって知りたい情報がすぐ手に入れられるとありがたい。とくに、活動に行き詰まったときにそういった支援があるとうれしいと思う。


木工の内容からの抜粋
○パキスタンの木工環境について
高級家具ではシーシャームという堅い広葉樹に真鍮を象嵌する「メタルインレイ」技法が有名。これは北インドも含めた一帯で盛ん。

建具・建材に使う木は針葉樹。ディアール、パルタル、チール(桧、杉、松に似る)が一般的。いずれも木材の価格は日本の実質5倍位以上。合板も同じように高い(これは輸入品だからだと思う)。

道具については、国産外国産バランスよく流通・使用されている印象。道具類のパ国産品については、ムガル帝国時代からの地場産業がありその延長でゾーリンゲンの下請けまでこなす。日本でもパキスタン製のものを見かける。


○道具の使用法の違いについて
日本と世界の文化の違いを語る際に、鋸の挽き方向の違いを引き合いに出されることがあります。

「日本(これにネパールが加わることがある)以外はみな押し挽きである」と、これを傍証として日本人の特殊性、果ては日本人の優越性まで語ってしまう場合がありますが、みな門外漢のたわごとです。鋸を実際に仕事で使っている人はそんなことは言いません。押しも引きもそれぞれ技術的な理由があって採用しているのです。

体格の違いを問題にする場合もありますが、でたらめです。パキスタンには体の大きな人が多いですが、鋸は引きです。インドの大部分で鋸は引きです。比べてスリランカには小柄な人が多いですが、鋸は押しです。だから、自分の方式と現地の方式が違っていた場合、自分の選びたい戦略に従えばよいと思います。例えば、みんなが押しを使っているから押しにするとか、使いやすいから引きとか自分しだいです。


○持って行った道具とその結果
任地でどんな状況になるかわからないので、自分の道具ぐらいは持ってゆくことをお勧めします。使わなかったらそれで良いし、必要になったときに臍をかむよりましです。自分の実力を証明しなければならないときが、配属3日後に来るか1年後に来るか全く来ないかそれはわかりません。

私は、道具箱大小合わせて5箱持ってゆきました。質量のあるものなので、輸送には木箱でないとめちゃめちゃになってしまったことでしょう。このうち、JOCV活動のために揃えたものは3分の1ぐらいです。

結局無くても良かったものがほとんどですが、後悔はしていませんし無駄というのは結果論に過ぎないと思っています。

(記事:H14-3 パキスタン 木工 加藤 充之)